私の好きな塔短歌0805<若葉集>黒住 嘉輝氏 選より
[敬称略]
・過去(すぎゆき)の一つを抱き綿雪の中を歩めばかすかな匂い(星野綾香)
・わが好きなワインレッドの帯地なり姿見掛けに作らむと決む(谷口かず子)
・わが無頼ゆるし給える母の死に娘はわたしの無頼を疎む(角谷絵鈴)
・昨日まで煮たきの香もれ来し家更地となりぬ「道路予定地」(西田美智子)
・暗き日々に火点す思い雑煮椀大きく赤きを使い始めぬ(橋本水津子)
・うつむきしままに指環を回しいるむかいの人のまつげの長し(安藤悦子)
・ふつくらと手鞠のような雀来る石釜工房のパン屋のベンチ(石井光子)
・みどりごの歩き始めはぽてぽてと ゆけるとこまでぽてぽてぽてと(宇梶晶子)
・緊張の極みなるらし盲導犬尾を高々と振りつつ進む(奥貫洋子)
・音もなく静かに雪に消えてった合鍵それは君に似ている(鈴木 聞)
・独り居の余り物だと書き添えて四季折々の母の小包み(外輪清孝)
・川沿いの店を廻れば雪の舞う中あでやかな赤かぶら漬(谷口公一)
・無愛想な媼の家の玄関でWELCOMEとうボード揺れおり(中山悦子)
・明かき灯に炬燵のみかん輝かせ父母は待ちゐきわが里帰り(山室樹林)
・音立てて換気扇から流れ込む北風聞きつつシチューを煮込む(龍田裕子)
・よく笑う夢でありしよこの一日(ひとひ)やわらかき心とどめておかむ(白石瑞紀)
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